家庭で溶接をしたいけど、どんな溶接機を選べばいいのかわからない。家庭の電気で溶接機を使えるのかわからない。
溶接機の選択は作業性に直接関わるものですが、機械によって家庭で使える電気の量を超えてしまう可能性があります。
この記事では、家庭の電気で使える溶接機の選び方を鉄工所で働く現役溶接工が解説。
溶接機の100Vと200Vは何が違うのかという点もお伝えします。また、溶接機を選ぶうえで重要な「定格使用率」についても触れていきます。
DIYで溶接を行う上で電気は一番大切な要素であるといっても過言ではありません。快適な作業をするためにも溶接機と電気の関係性はぜひ覚えておきましょう。
溶接機の定格電流が家庭のブレーカーに適合するか調べよう
まず、家庭用の溶接機を選ぶ際には溶接機の定格電流・溶接環境の契約アンペアを調べておきましょう。例えば、家庭で契約している電気が30Aである場合には溶接機の定格電流が30A以下である必要があります。何を確認していけば良いのかはここから解説していきます。具体的には次の手順で調べていきます。
- 溶接するご自宅など環境の契約アンペアの確認
- 購入を検討している溶接機の入力電力の確認
- 溶接機の入力電流にあったプラグ・コンセントの確認
溶接するご自宅など環境の契約アンペアの確認
まずは、溶接をする場所で使用する環境の契約アンペアを確認しましょう。一番手っ取り早く確認する方法としては、ブレーカーの色や数字を確認することです。
数字についてはブレーカーに数字が「30A」など記載があればそれがブレーカーの契約アンペアとなります。もしくは色で判断することも可能です。
電力会社 | 10A | 15A | 20A | 30A | 40A | 50A | 60A |
---|---|---|---|---|---|---|---|
北海道電力 | 黒 | 黄 | 青 | 赤 | 灰 | 茶 | 紫 |
東北電力 | 白 | なし | なし | 青 | 赤 | 紫 | 緑 |
東京電力 | 赤 | 桃 | 黄 | 緑 | 灰 | 茶 | 紫 |
中部電力 | 赤 | 茶 | 黄 | 緑 | 青 | 紫 | 灰 |
九州電力 | 灰 | 赤 | 黄 | 緑 | 茶 | 青 | 白 |
また、電力会社から毎月届く「電気ご使用量のお知らせ」にも契約アンペア数は記載されています。もしどちらでも確認ができない場合は、電力会社に問い合わせてみましょう。
購入を検討している溶接機の入力電力の確認
ブレーカーの契約アンペア数がわかったところで次は「目的の溶接機の入力電圧・電流」を確認しましょう。大体は製品ページで仕様の部分から確認できるかと思います。ホームセンターなどにいった際に展示してあれば溶接機の銘板でも確認することが可能です。
契約アンペア数が30Aの中で30Aを超える溶接機で溶接を行うと電気のメインブレーカーが落ちてしまい、作業ができなくなります。定格電流は定格入力電流や定格電力容量と記載があり、溶接機の説明書やステッカーに記載されているのでしっかり確認をしておきましょう。
確認をした上で、定格入力容量から電流を求める場合にはkVAと記載のある数字から計算をする必要があります。例えば100Vで2.5kVAの入力容量である場合には「2500VA÷100V=25A」となり、25Aの電力が必要であることがわかります。
また、次の銘板はSUZUKIDの銘板となりますが、このように黄色で囲ってあります通り入力「100/30A」と記載しており30Aが入力電流であることが確認できます。
使用される環境の契約アンペア数より下の入力電流の溶接機にすることは間違いなく必要ですが、環境によってはブレーカーから使用される機器が溶接機以外にも照明・家電などもあるかもしれません。その場合、契約アンペア数30Aのブレーカーに対して30Aの溶接機を使用すると他の電力も使用しており、結果的に電流が容量オーバーとなってしまいブレーカーが落ちてしまいます。溶接機の選定の際は他の消費する機器も想定し選定されることをおすすめします。
では、次に使用する環境でのプラグ・コンセントについての確認について解説していきます。
溶接機の入力電流にあったプラグ・コンセントの確認
ここまでは基幹であるブレーカーの契約アンペアと溶接機の入力電流について解説してきました。溶接機を使用する際に、ブレーカーから接続する際は、この項はそこまで気にしなくても良いのですが、ブレーカーから距離があり、どうしてもコンセントに頼る必要がある方は必見となります。
まず、コンセントとプラグは電圧・電流によって形状が違うことはご存知でしょうか?大体の家庭用のコンセント・プラグは次のようなものを想像できるかと思います。
このコンセントは125V・15Aまでしか対応していないコンセントになります。つまり、30Aの溶接機を使用する場合には電力が足りません。
もし、30Aをブレーカーから繋ぐのではなく、コンセントから使いたい場合は、125A・30Aの規格のコンセントを設置する必要があります。使用される環境に規格のコンセントがない場合は、電気工事士に依頼して設置することを推奨いたします。
プラグ・コンセントの形状については以下の表を参考にしてください。
形状 | 許容電圧 | 許容電流 | 接地極付き |
---|---|---|---|
125V | 15A | なし | |
125V | 20A | なし | |
125V | 15A | あり | |
125V | 20A | あり | |
250V | 15A | なし | |
250V | 20A | なし | |
250V | 30A | なし | |
250V | 15A | あり | |
250V | 20A | あり | |
250V | 30A | あり |
【重要】はじめから家庭用コンセントがついている溶接機の場合
注意点として溶接機によっては、「はじめから125V・15Aの一般家庭用プラグがついている溶接機」がございます。その場合、使用する際には事前に次のことに気をつける必要があります。
例えば30Aの入力電流の溶接機にはじめから15Aのプラグがついていた場合、家庭用コンセントで満足に使用できると思うのは大変危険です。
理由としては、15Aまでしか対応していないコンセントに30Aの電流を流すことにより、コンセントやケーブルが焼損する可能性があるからです。ブレーカーが先に落ちたりすることもあるので、焼損までいかないケースが多いですが、間違いなく負荷がかかっていることは確かで場合によっては火災が起きたり危険な行為となります。
もし購入した溶接機に家庭用コンセントがついていた場合は、溶接機の入力電流が15Aになるぐらいの出力に調整して動かすことを推奨いたします。一応、溶接機に「使用率」というのがあるので負荷が目一杯かかることは避けられますが、危険に変わりはないので、もし不安がある場合は、ブレーカー付きのコンセントを使用することで安全に使用ができます。
家庭用溶接機の100Vと200Vの違い
一般家庭用で使う電気は100V用のものが多いことから、100Vしか使えないと思いがちですが単相200Vの溶接機もあるので200Vの環境がある場合は使うことができます。
200Vは100と比較してパワーがあるため初心者の人にも200Vの方が溶接の溶け込みも良く、慣れていない場合でも作業が捗ります。
しかし、コンセントの増設や分電盤からの回路の入れ替えが必要であるなど、多少の電気の作業が伴います。200Vの環境がない場合、工事をして電力会社との契約が必要になります。
ここからは、100Vと200Vの溶接機の違いやメリット、デメリットの紹介をしていきます。
100Vの溶接機
100Vの溶接機のメリットは主に以下の通りです。
- 15Aまでの一般家庭用コンセントに差すだけで使用ができる
- 家庭用のコンセントさえあれば場所を選ばずに溶接ができる
- 100V15A程のアーク溶接機であればホームセンターなどで簡単に買える。
対して、100V溶接機のデメリットは以下の通りです。
- パワーが足りないので溶接できる板厚が限られる
- 一般家庭で使える半自動溶接機は値段が高い
DIYで溶接を行う人は安価で買える100V溶接機を選ぶ人が多いと思います。しかし、アーク溶接機の溶接棒は電気により適切な溶接棒を選ぶ必要があることに注意してください。溶接棒の選び方は以下を参考にしてください。
溶接棒の種類に注意
溶接棒は1mm~3mm、太いものでは6mmなどがありますが、家庭用の100Vでは1~2mmまでの溶接棒が推奨されます。100Vで2mm以上の溶接棒では電圧が不安定になり溶接が安定しません。
さらに、2mm以上になるとコンセントやブレーカーの許容電力を超えてしまうので落ちる可能性もあります。それぞれの溶接棒ごとに推奨される許容電力を把握して選びましょう。
溶接棒のサイズ(mm) | 許容電力(A) | 溶接できる板厚(mm) |
---|---|---|
1.0~1.2mm | 6~9A | 0.8~1.2mm |
1.4~1.6mm | 8~20A | 1.2~3.0mm |
2.0mm | 20~22A | 2.0~4.0mm |
2.6mm | 24~32A | 3.0~5.0mm |
3.2mm | 32A | 4.0~6.0mm |
100Vは1.0~2.0mmまでの溶接棒が推奨
家庭用の100Vアーク溶接機の場合では、上記の表のとおり、余裕をもって使える溶接棒のサイズは2mm程までだと言えるでしょう。しかし、できれば200Vの溶接機を使った方がパワーもあり、強度も確保できます。100V溶接機との違いを以下に紹介します。
200Vの溶接機
200Vの溶接機の特徴やメリットは以下の通りです。
- 溶接機のパワーは必要十分、家庭用の板厚ならどんなものでも問題ない
- 種類がたくさんあり、安く買える
200V溶接機のデメリットは以下が考えられます。
- ブレーカーの回路を200Vに組み換え、溶接機に応じたケーブルやコンセントを選ぶ必要がある
- 200V電源は限られた所にしか設置できないので作業場所が限定される
上記のようなメリット・デメリットが考えられますが、やはり溶接機のパワーは作業性に影響します。材料を簡単に溶かすことができ強度も得られることから可能であれば200Vの溶接機を選ぶことをおすすめします。
家庭で溶接をするなら定格使用率も重要
溶接機を選ぶうえで、定格使用率も考えなければいけません。溶接機は連続で使用を続けると溶接機内部の温度上昇によりオーバーヒートを起こしてしまいます。定格使用率は何分間溶接を続けられるかを表す数字です。
定格使用率が50%であれば10分間に5分までの使用に耐えられるといったように表されます。DIY向けの溶接機は定格使用率が低く設定されているものが多いので確認してからの購入をしましょう。
定格使用率について詳しく知りたい人はこちらの記事をご覧ください
溶接機を選ぶ際には電気の確認は必須
今回は家庭で溶接を行いたいと考えている人に向け、溶接機と電気の関係について紹介しました。溶接機を選ぶ際の注意点としては次のとおりとなります。
- 家庭で契約している電気に溶接機が使えるか把握しておく。
- 他の家電を使うことも考えて余裕を持った電流で考える
また、溶接機は100V、200Vなどの種類があります。DIYでの溶接や家庭用で簡易的なものの溶接では100Vでも十分かもしれませんが、パワーもあり、初心者でも強度が出しやすい200Vをおすすめします。