一般家庭での溶接機の導入はハードルが高く感じると思います。
しかし、溶接機本体と安全に使用できる環境さえ整えれば、木材によるDIYよりも柔軟な発想でDIYをすることができます。
例えば木材であれば、誤って寸法を短く切断してしまえば取返しがつかないですよね。金属であれば、2~3ミリ空間を開けて接合するなどの融通が効いたり、肉盛りという作業によって失った寸法を取り戻すこともできます。
ガス切断機やベンダーといった曲げ加工と組み合わせれば、流行の「インダストリアルインテリア」をご自分で制作することも夢ではありません。
この記事ではDIYで溶接ができるのか、DIYに向いている溶接機を紹介していきます。最後まで読むことで、目的・用途に合った溶接機を決定することができます。
溶接を家でやるのに資格は必要?
まず、気になるのは、溶接を仕事している人たちは、様々な溶接の資格を取得したうえで、普段溶接の仕事をしています。
では、DIYで溶接をする際に同じような資格が必要なのでしょうか?
結論から言うと、個人で家庭用の溶接機を用いて作業する上では資格の取得は必要ありません。会社で資格取得が必要になるのは、国が労働災害の発生を防ぐためなので、個人で溶接をするには問題はないのです。
もっと詳しく知りたい方は「DIYでの溶接に資格は必要?溶接の資格についてまとめてみた」をご覧ください。
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溶接を始めるのに必要なものは?
溶接機だけでは作業を開始することはできません。溶接には部材だけでなく、接合に使うための材料や、作業の際は光線や高熱を発する火花が飛散し、怪我や火傷を負わないための保護具などを準備する必要があります。
保護具や消耗品などは溶接機と合わせて準備しておきましょう。
では、溶接をするには何が必要なのか解説していきます。
溶接機
溶接をおこなうためには当たり前ですが必ず溶接機が必要です。
溶接機にはさまざまなタイプが存在し、それぞれに一長一短の特徴があります。
おすすめは「半自動溶接」というワイヤが出て簡単に溶接できる「半自動溶接機」をおすすめします。
他にもアーク溶接やTIG溶接がありますが、ある程度の技量が必要となってくるため初心者には間違いなく半自動溶接がおすすめです。
溶接用ワイヤ・溶接棒など消耗品
溶接を行ううえで必要な消耗品に溶接ワイヤや溶接棒などがあります。溶接ワイヤは半自動溶接機というタイプの溶接機に必要で、溶接棒はアーク溶接機に必要です。材質だけでなく太さ(径)や、値段などもそれぞれ違い、実にさまざまなものがあります。
溶接面
溶接時の光には「目に見える可視光線」の他にも見えない「赤外線」や「紫外線」を大量に含みます。有害な光やスパッタなどから目や肌を保護するために溶接の面は必須となります。
溶接面には「手持ち面」や「被り面」、「自動遮光溶接面」といったいろいろな種類の溶接面があります。
安価の手持ちの面では面を持つために片手しか使用できないというデメリットがあります。自動遮光溶接面のような頭にかぶって使用するタイプでは両手が使え、視界も広めに確保できるため作業性がよく、ヘルメット型で顔全体も保護できるので肌へのダメージも抑えることが可能なのでおすすめです。
溶接(防火)手袋
熱を持つ金属に触れたりする機会が発生するために、作業者の手をやけどから保護する厚手の手袋は溶接には必要です。溶接手袋には牛革・豚革・人工革、洗濯などで繰り返し洗浄が可能なタイプなどさまざまな手袋が存在します。
豚革は生地が薄く、手指の感覚がより伝わりやすいですが、厚みが薄い分、牛革よりも熱が伝わりやすいです。
特にこだわりが無ければ牛革がコストパフォーマンスに優れます。
溶接(防火)エプロン
作業中に発生する火花から身を守るためのエプロンです。革手袋と同じく、さまざまな材質のものが存在します。
溶接の火花(スパッタ)はアーク溶接・半自動溶接では多く発生するため必ず溶接エプロンは使用してください。
着用方法や使い方は料理で使用するエプロンと同じですが、厚みがあり、重量も通常のエプロンよりは重いです。
上記以外にあると便利な溶接グッズ
溶接帽や脚絆、防じんマスクなどの保護具があるとよりケガなどのヒューマンエラーによる事故の防止に役立ちます。
DIY溶接機を選ぶときのポイント
家庭用溶接機にはそれぞれが固有の特徴を持ち、実にさまざまな種類があります。
本項では自分の用途にあった溶接機を選ぶ際のポイントと、使用する際に必要な電気環境について解説していきます。
溶接機を使用する場所の電気環境
使用する溶接機が100Vの場合は、一般的な家庭用コンセントで使用可能です。
100Vでは出力に限界があるため、200Vに比べて溶接可能な板厚が薄くなりますが、鉄の板厚3mmほどであれば100Vで問題なく作業ができます。
使用する溶接機が200Vの場合、ご家庭に200Vがある方は少ないかもしれませんが、もし使用が可能な環境であれば、同じ出力電流でも出力が上がるため厚みのある部材であっても溶け込みやすく、接合部の強度を遥かに高めることができます。
電気工事を請け負う会社に工事を依頼することで、家庭でも200Vのコンセントを設置することが可能です。100V・200Vのいずれの場合も、作業前に消化水を用意の上、周囲に可燃物がない状態で作業してください。
溶接機の種類・違いについて
溶接機にはさまざまな種類があります。本項では家庭用として一般的な半自動と被覆アーク(手棒)という方式の溶接機のメリット・デメリットをあわせて解説していきます。
半自動溶接機
ワイヤ状の溶材を使用し、トーチと呼ばれる装置の先端でワイヤと母材を溶かし、溶融させる方式を採るのが「半自動溶接機」です。
トーチのトリガーを握る間、ワイヤーが供給され続けるので、手元と母材との距離が変化しにくく、溶接が楽になります。
自動遮光溶接面・かぶり面と呼ばれる、頭に取り付ける面体を使用すれば、両手でトーチを保持することができるため、手振れも抑えることができるため、初心者にはおすすめです。
デメリットとして、トーチには消耗品が多く、「チップ」や「ノズル」といった部品が摩耗し、作業が中断する可能性がある点に注意しましょう。
また、家庭向けに購入の際は、炭酸ガスを使用しない、「ノンガスタイプ」であることを確認しましょう。
被覆アーク(手棒)溶接機
アーク溶接機とは、溶接棒を「ホルダー」と呼ばれる装置に挟むように取り付け、被覆溶接棒を電極とし、母材と被覆溶接棒との間に「アーク」と呼ばれる熱源を発生させ、溶接棒を溶かして母材に溶かし込む方式を採る溶接機です。
アークの発生のさせ方も独特で、母材と棒をつついたり、すり合わせてアークの発生を狙う際の引っ付く感覚に慣れない方も多いかと思います。
棒自体が消耗していくため、仮止めの後の本溶接作業の際などは、手元と母材との距離が近くなっていくため、使用には慣れが必要であると言えるでしょう。
これらを練習することで習得し、乗り越えられれば、シンプルな構造のアーク溶接機は、半自動溶接機とは比較にならない程の圧倒的なコストパフォーマンスと、設置・撤収の楽さといった、多くのメリットを感じられるでしょう。
定格使用率について
溶接機には使用率が定められていて、一定時間で電源が停止される仕組みが組み込まれることによって、故障などのトラブルを未然に防いでいます。それを表す表示が「定格使用率」であり、この表示は10分間の内にどのくらいの使用率で使用できるかを示しています。
初心者におすすめの溶接機
溶接の初心者がいきなり接合を成功させるのはなかなか難しいです。
溶接には溶接機の種類毎にコツがあり、特性を理解して練習することで綺麗なビードを引くことが可能になりますが、習熟を助ける初心者向けの機能を備えた溶接機を紹介していきます。
本項紹介の機種を入手することが出来れば、粗悪な溶接機を買ってしまったり、溶接作業が難しいと感じることはまずありません。
半自動溶接機
母材とノズルの位置が変わらない半自動溶接機は習熟までの期間が短く、初心者にうってつけです。
本体はアーク溶接機よりも値段が高いことが多いですが、あまり頻繁に溶接機を使用しない方や、溶接技術習得に不安がある方におすすめです。
HAIGE YS-MIG100
ノンガスタイプであり、可搬型であるので、一般家庭でも、プロ用途でも活躍できうるポテンシャルがあります。
80Aでの運用時の定格使用率は60%を実現。
また、溶接後のスラグを除去するための道具である「チッピングハンマー」があらかじめ付属する点も見逃せません。
スター電器製造(SUZUKID) Buddy80
電圧・電流の調整によって、0.8mmといった薄板の溶接も可能にするモデル。
板が薄い場合、素早くかつしっかりと溶け込む溶接を行えないと、板に穴が空いてしまうのですが、この溶接機は薄い材質の母材の溶接を得意としています。
あまり厚みのある部材の溶接を行わない方、耐荷重よりも軽量さ、繊細さを重視する製作をおこなう予定の方におすすめです。
スター電器製造(SUZUKID) Buddy140
重量も6kgと軽量で、可搬溶接機としておすすめです。
付属のストラップを本体に取り付けることで、肩掛けすることで保持し、両手を使いながら溶接することができるため、場所を問わずさまざまな状況で使用することができます。
100V運用時の場合、4mmまでの板厚に対応します。
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被覆アーク(手棒)溶接機
消耗品が少なく、ランニングコストを抑えられるメリットのあるアークは半自動溶接機に比べて金銭的に有利ですが、その反面、習熟に時間を要します。
本項では初心者にもおすすめできる機能を備えたアーク溶接機を3種紹介します。
スター電器製造(SUZUKID) STICKY80
ホットスタート機能の他、減る溶接棒と母材の距離感を掴めなくても、一定距離まではアークが発生し続けるアークフォース機能や、アークが発生しづらくなり、溶接棒が母材とくっついてしまう現象を軽減するアンチスティッキング機能を搭載しています。
HAIGE HG-MMA-140D
STICKY80と同等の機能を持ちながら、100V使用時も、200V使用時であっても、定格使用率が60%を実現したアーク溶接機。
連続した作業ができるため、他機種よりも待機時間が少なく、ストレスが少ないです。本体にコンセントプラグが付属しない点に注意。
※10分間に6分間溶接し、4分間休止する
スター電器製造(SUZUKID) STICKY140
100V/200Vの兼用タイプであり、200Vでの運用時は140Aでの高電圧での溶接ができます。
200Vでの運用時は、使用可能な溶接棒のサイズもφ3.2までに選択の幅が広がり、溶接可能な母材の板厚も4~6mmまでの溶接も可能です。
よりパワーのある溶接機をお求めの方や、より厚く大きく頑丈な制作を行いたい方におすすめです。
半自動・被覆アーク溶接機両方使いたい方向け
アークと半自動の両方の溶接機のメリットを取りたい方におすすめな、両方の機能を有する溶接機を紹介します。
本項で紹介する溶接機は、ホルダーとトーチの接続を変更することで、アークと半自動との機能を切り替えることが出来ます。
スター電器製造(SUZUKID) アーキュリー80NOVA
半自動溶接・アーク溶接(手棒)の両対応機種です。
特に半自動溶接はアーク溶接とは違い、消耗品が多いので、安心安全な国産メーカーを使用したいところです。
HAIGE HG-MAGMMA-100A
こちらは溶接DIYが捗る定格使用率60%のアーク・半自動の両対応機種です。
インバーター制御のおかげで仕上がりが美しく、スパッタの飛散が他社製品よりも少なくする工夫がなされています。
アークも半自動も使いたい方や、美観・仕上げの良さを重視する方におすすめです。
まとめ
DIYで溶接を行うことは可能ですが、溶接機はもちろん保護具や作業環境の準備も必要になってきます。
環境が整えば木工ではなく新しい楽しさが見つけられるのではないでしょうか。
トータルの維持費を抑えたい方や、根気よくDIYに臨む自信がある方、アーク独特の操作の習得にも自信のあるといった方にはアーク溶接機を、簡単で便利に扱いたい初心者の方には、技術の習得が早い半自動溶接機をおすすめいたします。